大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)999号 判決

控訴人

三木税務署長

神山政夫

右指定代理人

大蔵事務官

辻本勇

今井三雄

三木市府内七〇四番地

被控訴人

株式会社 屋満五

右代表者代表取締役

光川五一

右訴訟代理人弁護土

井藤誉志雄

右訴訟代理人弁護土

竹内信一

右当事者間の昭和三一年(ネ)第九九九号更正決定取消控訴事件に付当裁判所は次の通り判決する。

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

控訴人が昭和二七年九月一日から昭和二八年八月三一日までの事業年度分法人税に付被控訴人に対しなした更正決定に関し大阪国税局長の審査決定により変更せられた所得金額五二三、九〇〇円中金四六九、九〇〇円を超える部分は之を取消す。

被控訴人の爾余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ之を四分し、その一を被控訴人その他を控訴人の各負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方事実上の陳述は控訴人に於て元来代表取締役光川五一は会社の業務執行の職責を有するものでその職務の種類及範囲に付ては何等の制限なく万般の事項に亘るのである。ただ通常はその業務が広汎多岐に及ぶので多くの補助者を使用し之を指揮監督するのであるが代表取締役が直接業務の執行に当つたからと云つて会社との間に雇傭関係に基く使用人としての地位を認めることはできない。従つて代表取締役に支給せられる賞与は常に役員賞与たるべく使用人賞与たる余地はない。次に代表権のない取締役光川太平、光川しづゑは代表取締役と異なり会社の業務に従事する場合使用人としての地位を兼ね得るものであることは否定し得ないがなお取締役会の構成員として会社の業務運営に関与するものであるから之に支給される賞与を以て一概に使用人賞与と見ることは許されない。従つて之に対する賞与については役員賞与と使用人賞与とを区分し使用人賞与として合理的なもののみを損金と認むべく特段の事情のない限りその全部を役員賞与として認めるのを妥当とすると述べ、被控訴代理人に於て本件賞与は被控訴会社の役員中使用人たる業務に従事するものに支給し単に役員たるものに支給しないことその支給の時期、金額等に徴し使用人賞与たること明で監査役は使用人たることを禁ぜられているが之に違反する場合に刑事上、民事上の責任を招くことは格別闇取引による所得も税法上の所得たる以上本件賞与を損金として扱うことは何等差支えない被控訴人会社が同族会社たることは之を争わないと述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。

証拠として被控訴代理人は甲第一号証の一、二及同第二号証を提出し原審証人光川しづゑの証言及原審に於ける被控訴会社代表光川五一本人尋問の結果を援用し乙各号証の成立を認め控訴人は乙第一乃至六号証を提出し甲号各証の成立を認めた

理由

被控訴会社が同族会社たること及原判決事実摘示中請求原因(一)の事実に付ては当事者間争なく成立に争のない乙第五号証に依れば訴外光川五一は被控訴会社の代表取締役訴外光川太平及光川しづゑはいずれも代表権のない取締役又訴外光川ひろ子は監査役たること明である。然るところ会社の代表取締役は会社の機関として職責上会社の業務を執行すべきもので之に対し使用人たる地位を認め得ないことは控訴人主張の通りであつて之に対しては役員賞与の外使用人賞与なるものを認め得ない。従つて控訴人が被控訴会社の代表取締役光川五一に対する本件賞与金二万円の使用人賞与たることを否認しこれを法人税賦課の対象としたのは正当である。併しながら被控訴会社の代表権のない取締役光川しづゑ及光川太平はそれぞれ被控訴会社の使用人たることを得べく同人等に対する本件賞与はいずれも使用人としての賞与と認むべきこと原判決理由(本件当事者間の昭和三一年(ネ)第九九八号事件に於ける当裁判所の判決理由参照)と同一であるから茲に之を引用する。

然らば被控訴人の主張の内光川太平及び同しづゑに支給した賞与金五万四千円は必要経費として認められるが光川五一に支給した金二万円は利益処分で課税の対象となるべきものというべく控訴人の主文掲記の審査決定による所得金額から右金五万四千円を差引き金四六九、九〇〇円を超えるものは之を取消すべきものである。よつて原判決を変更すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九六条に則り主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 藤城虎雄 裁判官 亀井左取 裁判官 坂口公男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例